教養教育ピックアップ

教員クローズアップ:多言語・多文化の魅力、新しい言語を学ぶ喜び(Ⅰ)

~ キャンパスで学ぶ世界の言語と文化 ~

教養教育院 ヨフコバ四位 エレオノラ 教授

インタビュアー:教養教育院 福田 翔 准教授

富山大学の教養教育科目では、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語、朝鮮語の5言語を開講して、新しく言語を学習する機会を提供しています。また、「異文化間コミュニケーション」など、様々な言語や文化を学ぶことのできる授業もあります。大学に入って、新しい言語にチャレンジし、それを身につけることの喜びや魅力を、ヨフコバ先生のインタビューを通して感じ、新たな世界の扉を開きましょう。

▼ インタビュアー:福田先生   

  ▲ ヨフコバ四位先生

教養科目「異文化間コミュニケーション」 ~学び、体験し、交流する~

福田 まず、ヨフコバ先生がご担当されている「異文化間コミュニケーション」の授業についてお伺いしたいと思います。現在、大学においても、国際的な視点、国際的な感覚ということが重要視される中で、特にこの授業では、それに関わるいくつかの興味深い取り組みがなされておりますが、授業の内容について、お教えいただけますか。

ヨフコバ 簡単に言えば、「異文化間コミュニケーション」という授業は、教養教育院の4名の専任教員と外部の8名ほどのゲストスピーカーによるハイブリッドの授業です。ゲストスピーカーの回では、世界のいろいろな地域や国の文化や言語について紹介されています。たとえば、今年度秋学期には、中国、韓国、ベトナム、インド、アメリカ、ブラジル、スペイン、ロシアについて紹介する予定です。また、教養教育院の教員の専門領域である中央アジアを笹山先生、ドイツを名執先生、そして、バルカン地域などについては私も授業を行っています。授業の主な狙いは、様々な国や地域、またその言語の紹介を通して、学生が異文化や多言語、また多文化共生について理解を深められるだけでなく、多文化の観点から自国の文化についても再認識できるようになることです。また、この授業では、学生の意見交換やグループディスカッションを取り入れたアクティブラーニングに積極的に取り組んでいます。最終回では、富山大学に在籍している留学生を授業に招き、留学生との交流会を通じて、体験的な学びを実施しています。

福田 まさに国際色豊かな、非常に魅力ある授業ですね。では実際に、富山大学の学生にとって、あるいは教養教育の授業の中で、「異文化間コミュニケーション」の果たす役割とは、どのようなものであるとお考えですか?

ヨフコバ 「異文化間コミュニケーション」という授業の役割は色々あると考えていますが、ここでは、3つに絞ってお話ししたいと思います。

まず一つ目は、学生が普段なかなか体験できない文化や言語について学ぶことができることです。たとえば、数年前からスペイン人の先生をお招きして、カタルーニャという地域のお話をしていただいたり、昨年度はインドの方に来ていただいて、インドのお話をしていただいたりしています。その中で、富山国際センターからもゲストスピーカーとして、様々な国の方に来ていただいております。

二つ目は、語学学習に刺激を与えられるという点です。つまり、学生に在学中だけでなく、将来を通して、もっといろいろな言語に触れてみたいという意識を起こさせる授業です。富山大学として提供できる初修外国語のプログラムは比較的限られていますが、将来的に、より幅広い学びの選択肢についての情報を提供できるのではないかと考えております。

三つ目は、授業の最終回に富山大学の留学生を招いて交流会を行っておりますが、個人的にはこの留学生との交流は日本人学生にとって、大きな刺激となっていると考えています。日本人学生は多少遠慮気味であり、なかなか積極的に発言したりしないのですが、この留学生との交流会で日本人学生がいつも驚いているのは、留学生の積極的な態度です。そして、驚きと共に、留学生を見て、よりグローバルな世界市民になるためには、もっと何をすべきかということを学ぶ良い機会となっているのではないかと思います。

福田 今のお話の中で、富山国際センターからも講師の方が来てくださっているということでしたが、この講師の方々は、授業でどのようなことをお話されているのでしょうか。また、学生がその授業にどのように取り組んでいるのかについて、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。

ヨフコバ 授業内容は、非常にバリエーションに富んでいるのですが、基本的にその国の文化、言語、あいさつなどの紹介をしてもらったりしております。それと同時に、授業のはじめのときに学生にいくつかのキーワードを与えて、そのキーワードに関することを授業中に自分で見つけ出して、考えてもらうという課題もやっております。単純にその国の文化、社会、言語などについて話を聞くということではなく、積極的に多文化共生などについて考えてもらっています。また、他方では、自分自身の言語、文化と比較しながら、考えるということも目指しています。

福田 ありがとうございます。実際に「異文化間コミュニケーション」を履修した学生の声として、どのようなものがありますか?

ヨフコバ 毎回授業評価のアンケートを書いてもらっているのですが、その中で、とても興味深いコメントがあったので、少しだけご紹介したいと思います。
「毎回グループワークでアクティブラーニング形式の授業であったため、とてもいい刺激を受けたし楽しかった。」
「このように学年も国籍も学部も全てバラバラのメンバーで学べるような機会はなかなかないと思うので、貴重な経験だった。」
「 個人的に、自分が大学でまさに学びたいと思っていた内容そのままの授業であったので、とても楽しかった。」
「確かにデータサイエンスや地域、地元について学ぶことも大事だが、同じくらい世界や外国、その文化についても学び、それらを比較して客観的に考察する機会も、私たちにとっては必要だと考える。特に富山大学にはそのような機会が少ないと思う。」
これらのコメントは学生の率直な気持ちを明確に物語っていると思います。私もとても刺激を受けました。

福田 学生にとって、他ではなかなかできない、非常に魅力的な授業であるということがよく分かりました。また、実際にその国の方々に直接お話を伺えるというのが、ただ単に知識として聞いているのとは少し違って、リアルな体験として実感できるのですかね。

ヨフコバ そうですね。その上で、ちゃんとした学びがあったというのが、嬉しいことですね。

福田 今、全国的にも言語の学習においては英語が重視されています。もちろんそれは、大切なことなのですが、一方で、英語以外の外国語を学ぶことの意義について、ヨフコバ先生のお考えをお聞かせください。

ヨフコバ もちろん英語という言語は非常に大事だとは思います。なぜかというと、現在、英語は国際言語になっていて、例えば、研究をしたりする場合は、英語は欠かせない言語だからです。しかし、英語だけ重視するということには少々問題があると思います。私は今まで仕事やプライベートで30ヵ国ぐらいを訪れる機会がありましたが、その経験から言えるのは、どの国でも英語が通じるという考えは決して正しいとは言えないということです。日本人から見ると、海外に出たら必ず英語が通じると考えるかもしれませんが、決してそうではないのです。むしろ、個人の経験から言えば英語が通じない場所のほうが多いように思います。例えば、ドイツやオーストリア、またオランダのようなゲルマン系の言葉を使っている国では、意外と英語はあまり通じません。昨年、オランダに行きましたが、道などを尋ねても、ほとんどの人が英語が分からないという状況でした。また、フランスやベルギーなど、フランス系の言葉の国では英語に対してライバル意識を持たれることもあり、分かっていても答えてくれないという場合もあります。
ですから、英語にこだわりすぎるというのはよくないと思います。そもそも、今のヨーロッパでは、EUが形成してから、様々な国と地域の人が入り混じっているので、むしろ英語が通じないということの方が当たり前かも知れません。そのため、英語以外にあと1つでも違う言語を覚えておくと、世界が広がると思います。

ですから、学生の皆さんにも、英語以外にもう一つの言葉に、少しかじるだけでもいいので、触れておいてもらいたいです。

福田 富山大学の卒業時調査で、「国際的な視点で考えることや国際的な感覚」をどれだけ身につけることができたかを調査し,その向上を目標として掲げています。しかし、調査結果は芳しくありません。この点について、どのような対策が考えられるでしょうか?

ヨフコバ 様々な要因が考えられますが、例えば、学生が学べる外国語の選択肢の少なさがその一つなのではないかと思います。つまり、大学で学べる外国語、大学が提供する外国語の多様性ですね。もっとたくさんのオプションがあると、学生の選択肢も広がると思います。私が以前教えていた大学では、1年生の教養のクラスで「トライ・〇〇語」という授業があったんですね。

英語や初修外国語とは別に、単位の取れる、ものすごくたくさんのバリエーションがあるプログラムでした。
1学期だけなんですが学生が自由に選べる、非常に豊かなプログラムでした。私の隣の部屋は「トライ・セルビア語」だったんですが、溢れるくらいの受講生がいましたよ。
だからもし、そういう選択肢があれば、学生ももっといろんな言語に触れる機会になると思います。
それから、留学経験ですね。そこには様々なハードル、例えば、経済的なハードルもあろうかと思いますので、今後の大学の課題としては、留学の機会や留学のための支援対策を強化すべきだと思います。

福田 英語や初修外国語とは別に単位を取れる外国語があったのですね。履修のバリエーションがとても豊富ですね。どのような目的で履修される方が多かったのですか。

ヨフコバ 目的は様々でした。私は「トライ・ブルガリア語」を教えていたんですが、人によって、言語を体系的に学びたいという人、言語をちょっとかじって簡単な表現を覚えておきたい人など様々でした。

福田 授業の内容はどのように組み立てられていたのですか。

ヨフコバ 富山大学でいう「基礎」と「コミュニケーション」が組み合わさったような形で、多様性に対応できるようなシラバスを組んでいました。

福田 英語も初修外国語も学び、さらに別の言語も用意されている、そして、そこに学生さんが来るというのはすごいことですね。

ヨフコバ はい。人気のある授業もありましたよ。私のはそうでもなかったんですけど(笑)。セルビア語は先生が魅力的だったと思います。

キャンパスの中でも、様々な言語や文化に触れる機会を積極的に作ることが重要だと強く感じました。 初修外国語や多言語・多文化をテーマとした授業などを通じて、 新たに言語を学び、多様な文化に触れることの喜びや意義を伝えていければと思います。

(インタビューは、「多言語・多文化の魅力、新しい言語を学ぶ喜び(Ⅱ)」につづく)