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短期留学の魅力②:カザフスタン共和国でのロシア語研修

2025年3月4~28日、カザフ国立大学(カザフスタン共和国アルマティ)でロシア語研修に参加した安川然さん(やすかわ・ぜん。工学部2年。研修参加時は1年生)に話を聞きました。(聞き手:笹山啓)

研修に参加したきっかけ

笹山:現在、学部では何に興味を持って勉強していますか。
安川:残念ながら具体的に興味を持てる分野はまだ見つけられていないので、その時々で興味を持った分野の勉強をしています。最近はプロペラの形に興味を持ったので、論文を読んで、そこに書いてあった手法の勉強を始めました。
笹山:この前ドローンの大会に出場していましたよね。
安川:そうですね、工学部主催のサークルで活動していて。プロペラに興味を持ったのはそういう関係です。3年生がいないので2年生の私が部長なんですが……。現在新入部員募集中です(注:サークル名は「ドローンプロジェクト」とのこと)。

笹山:富山大学に入ってロシア語を履修しようと思ったきっかけはなんですか。
安川:元々、大学入学前からロシア語やロシア語文化圏の人たちへの興味を持っていて、入学した後に決める第2外国語の選択肢にロシア語があったので履修しました。

笹山:今回カザフスタンでのロシア語研修に参加しようと思ったきっかけはなんですか。
安川:大学入学前から留学をしてみたいと思っていたのですが、1年時の英語の短期留学は、個人的には値段を高く感じたので諦めつつありました。そんな時にこの研修の存在を知りました。他の留学よりは安く、英語圏ではない国に行くのが面白そうだと思ったので、ロシア語研修に参加しました。
笹山:たしかに、カザフスタンは物価が低いですし、研修にかかる費用も安めですよね。そういったきっかけもアリだと思います。

現地の印象

笹山:人、町、食べ物、大学、気候などについて、現地の印象はどうでしたか。
安川:現地の印象はとても良いです。まず、差別をほとんどされませんでした。行く前は覚悟していたのですが、町に住む人々を見渡しても、顔つきが東アジアの人々に近いのもあり、その心配は無用でした。ただ、悪意はないと思うのですが、タクシーの客引きのおじさんに「キタイ、キタイ!你好!」 と声をかけられたときは、自分が異邦人であることを改めて実感しました(注:ロシア語で「キタイ」は「中国」の意)。
笹山:中央アジアの人々は日本人に似た顔立ちの人も多いですし、中国や韓国系の人も多く住んでいるので、日本人だけが浮いてしまうような感じはないですね。
安川:町の建物は割と近代的な発達を見せる反面、中心地から離れるとソ連時代の面影を見せる建築が多く、散歩しているだけでも楽しかったです。また、東方正教会の教会やイスラム教のモスクがあって、いろんな人種の人も住んでいるので、思っていたより多文化だなあという感じでした。ほかにも、日本では見ることがなかなかない本物の野良犬を見つけた時は、ブルガーコフの小説『犬の心臓』を想起してとても興奮しました。唯一の欠点は雨や雪が降ると、歩道がとてもぬかるむことです。
笹山:『犬の心臓』は、20世紀のロシアの小説家の作品ですね。野良犬が人間になるという。

カザフ国立大学の正門

アルマティの町の中心部にある正教会「ゼンコフ教会」

安川:公共交通機関はバスと地下鉄が発展していて、しかもどちらも日本に比べてもかなり安いのが助かりました。あと、タクシーが10キロで500円ぐらいでしたので、ちょっと遠いところへ行くときは重宝していました。食事が合わないことも危惧していましたが、食べ物はどれもとても美味しく杞憂でした。カザフ料理以外にも、ロシア料理やジョージア料理、トルコ料理など日本ではあまり見かけることのなかった料理を扱ったレストランが多く、色々な食文化に触れられて楽しかったです。
笹山:具体的にはどういう料理がおいしかったですか。
安川:「バウルサック」はご存じですか?揚げパンのようなものなのですが、日本のものほど甘すぎず、おいしかったです。ほかには、これはジョージア料理なのですが、カザフスタンで初めて食べた「ハルチョー」というスープが気に入りました。あとカザフスタン固有のというよりは中央アジアの遊牧民の食文化の一つだと思うのですが、ラクダの乳は個人的にはとてもおいしかったです。おススメです。気候は基本晴れで、時々雪が降っていました。ただ空気は富山とは比べ物にならないほど乾燥していて、朝起きて水を500ml飲まないと呼吸が辛いほどです。私は留学中にこの乾燥が原因で風邪をひきました。留学の終わりも近い3月の終わりごろには、春の萌しが感じられるぐらいの気温になるので、確かに防寒対策は必要ですが、スウェットだけでなんとかなるぐらいの気温になります。
笹山:なるほど、日本と比べるとたしかに空気は乾燥していますね。そのおかげで夏などは非常に気持ちのいい気候なのですが、冬は体調に気を付ける必要がありそうです。

地下鉄のホーム

ラクダのミルク

ロシア語研修について

笹山:それではロシア語研修自体の感想はどうでしょうか。
安川:1日の初めに、まず大学の基礎ロシア語でやるような文法の授業がありました。その後、現地で日本語を学んでいる学生とのコミュニケーションの授業があり、ロシア語と日本語を混ぜて使いながら会話をして交流しました。どちらもかなりたどたどしいんですが……(笑)。授業の難易度は、序盤はなんとかついていけたのですが、後半は長文読解や知らない文法を初見でやったので大変でした。授業は10人前後で行われるので発言する機会が多く、一回に喋る文も日に日に長くなるので、目に見えて成長できました。先生も優しく教えてくれるのもあって、発表や質問をしやすい空気感は常にありました。
笹山:最大でも10人くらいであれば、語学の授業の規模としては最適ですね。課外活動もプログラムには入っていたと思いますが、参加しましたか。
安川:はい、遠足はチャリン・キャニオンとタンバリタスという自然公園に行きました。どちらもかなり遠く、それら自体にも魅力はあるのですが、私は日本ではまず見ることのできない広い平原と地平線、そして羊や馬たちを見られたのがとても印象に残りました。

授業の様子

道を横切る羊たち

笹山:今回は北海道や関東、関西の大学から大勢の学生が同じ研修に参加していたと思います。他の参加者との交流についてはどうでしたか。
安川:やはり皆さん留学しに来ただけあって、人と積極的に話そうという気概があるので、とてもフレンドリーでした。普段の授業では、あまり大人数で授業はやらないのですが、今回の研修では30人弱の人が参加して、学外にもロシア語を学んでいる人がこんなにいるのだと実感しうれしく思いました。工学部で、しかも1年生だった私にも積極的に話しかけてくれたので、富山大学でできた友達よりも向こうでできた友達の方が多いです(笑)。
笹山:それはよいですね。他大学の学生たちと共同で寮生活をしていたと思いますが、海外での寮生活はどうでしたか。楽しかった点、慣れなくて辛かった点、どちらもあると思いますが。
安川:楽しかった点は、みんなロシア語を勉強していても、各々興味のある分野や趣味が違うので、ひとつの話題から、様々な観点で話せたことです。また、5人部屋で初対面の人と生活すること自体なかなかないと思うのですが、おつかいを頼んだり、一緒にご飯食べたり、休日に出掛けたりするのがどこか寮というよりはルームシェアに雰囲気は近かったです。辛かった点は、洗濯機が使えないことです。手洗いです。本当に玉に瑕です。他は快適でした。
笹山:洗濯機の件は、実は私もあとから知って驚いたのですが、ちょっと辛いですね……(笑)。ただ、合う合わないはあると思いますが、安川さんは楽しめたようでなによりです。

研修参加後の展望

笹山:第2外国語学習やそれを通じたカザフスタンでの経験は、今後の大学生活に活かせそうですか。
安川:間違いなく、今回の留学を通じて明らかに日本語以外への向き合い方が変わったことは、人生を通じて活かせる経験だと思っています。留学前は、如何に正しい文法で、詰まらずに話せるかを気にしていたので、外国語を人前で話すことを少し躊躇っていました。ですが留学後は抵抗感が多少マシにはなりました。というのも、ロシア語は英語の様に語順に縛られることがあまりないので、割と思いついた端から格変化をさせて話していけば通じることが多いです。だから先ほど述べたことがネックにならないので、向こうで生活しているうちに日本語以外を話すことへの抵抗感が自然となくなりました。その上、カザフスタンでは現地で日本語を学ぶ学生を除いて日本語がまず通じません。なので、ロシア語で話すのが難しいと感じた時は、必然的に英語に逃げるしかないので、勝手に英会話も少しできるようになりました。ただ英語も無理なときは翻訳ソフトに縋っていました(笑)。今回の研修で、臆せず日本語以外を話せるようになったことは、英語を用いた発表などの機会に活かせるアドバンテージになったと思います。英語が得意すぎると、留学中に自分の中でここまでの変化は起き得ないと思うので、初学者レベルの、しかも英語圏外の第2外国語で留学したことによる圧倒的なメリットだと考えています。
笹山:1年間基礎を学んだだけですので、ロシア語で完璧にコミュニケーションをすることは難しかったと思いますが、それでも外国語を話さなくてはいけない環境に身を置く、というのは非常に重要ですね。「お会計お願いします(Счёт, пожалуйста.)」とか「袋をください(Дайте пакет.)」とかいった表現は、向こうに行くと自然に学びますが、逆に授業ではなかなか扱えませんし。最後に、今後カザフスタンでの語学研修に参加してみたいという人たちに向けたアドバイスはありますか。
安川:乾燥対策は絶対にした方が良いです。のど飴を3袋消費しましたが風邪をひきました。慣れれば問題ないのですが、それまではかなりきついと思います。また勉強面では、普段の授業で使っている教科書で十分なのですが、シャドウイングは絶対にやった方が良いです。普段の授業ではリスニングをやる機会はあまりないかもしれないのですが、相手の言いたいことをまったく聞き取れないと会話を進められないので、やったほうが良いです。私がシャドウイングをやっていた期間は1か月ぐらいなのですが、それでも効果は実感できたのでやった方が良いです。あと、バザールやナウルーズ(注:3月末にある、春の訪れを祝う祝日期間)では基本口頭で注文や支払いをするので、大きい数詞は渡航前に扱えるようにしておくことをお勧めします。またメジャーな観光地ではないのですが、町のはずれにある動物園にはぜひ行ってほしいです。日本とは違った気候に依って、ラクダやラバなどの日本ではなかなか見ることのできない動物がたくさん見られます。
笹山:ありがとうございました。

ナウルーズでにぎわう街の様子