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注目授業特集 : 「考える力」を引き出す授業デザイン ~デジタルツールを活用した『SDGs入門』~

教養教育院 杉森 保 教授

「SDGs入門」

大学の授業は、知識を得るだけでなく、思考力や主体的に学ぶ力を育む場でもあります。本記事では、オムニバス形式で複数の専門家が講義を行う『SDGs入門』の授業を取り上げ、学生の意見交換を活発にする工夫や、学び続ける力を育むための取り組みについて、主担当の杉森先生にお話を伺いました。この授業では、リアルタイムで意見を可視化できるデジタルツール「slido」を活用し、学生同士が対話を深める機会を多く設けています。

本記事では、授業のねらい、学生のリアルな反応、今後の発展について詳しくご紹介します。知識を超えて「考える力」を育む授業の魅力を、ぜひご覧ください。

SDGsを通じて「幅広い視野」を育む

—— まず、先生の授業の特徴や大切にしていることについてお聞かせいただけますか?

SDGsの全体像と個々のゴールを行き来しながら、幅広い視野を養ってもらいたいと考えています。そのために数回ごとに振り返りの時間を設定し、受講生それぞれが自分の考えを書き出したり、それを教室で共有したりといった機会を持つようにしています。

—— なるほど、学生自身の考えやそれを学生同士で共有する機会を大切にされているのですね。では、授業の目的や目標については、どのように考えていらっしゃいますか?

SDGsのすべてのゴールについて扱うことは困難なので、受講生それぞれの興味に応じて関連する様々なことを調べてみるきっかけを提供できるように考えています。

「slido」で意見を可視化する授業づくり

—— 授業の中で特に工夫している点があれば教えていただけますか?

特に、数回ごとに私が担当する振り返りの回では、受講生の意見分布などを共有する目的で「slido」を多用しています。振り返る内容に関する簡単なクイズ、振り返るゴールに関する意識調査などです。また、各自の考えをまとめるために、簡単なワークシートを配って一旦考えを紙に書き出してから、Moodleなどに意見を書き込んでもらっています。

—— たしかに、手を動かして書くと考えが整理される感じがしますね。ほかに、授業で意識していることはありますか?

あとは、話し方というか口調ですね。受講生に「(教員から)上から見下ろされている」という感覚を持たれないように、また授業にリラックスして参加してもらえるように、やわらかい口調や言い回しを意識しています。先生の中には「受講生に舐められるのでは?」と思う方もおられるかもしれないし、実際に「舐めてかかる」受講生もいるかもしれませんが、その点は気にしていません。

—— 授業の雰囲気づくりにもこだわっていらっしゃるのですね。リラックスした環境だからこそ、学生も自由に意見を言いやすくなりそうです。では、授業準備や教材開発で特に意識されていることはありますか?

「slido」でどのようなことを尋ねたら振り返りにつながるのか、授業のどのタイミングでどんなクイズを入れれば受講生にメリハリのある授業を提供できるかを考えています。また、キーボードなどから文章を入力することと、手を動かしてペンで紙に書き出すことでは頭の中の経路が異なるのではないかと考えていて、先述のワークシートは「一旦手で書く」ということを大切にしたくて行っています。

学生の声から見る授業の魅力

—— 授業に対する学生からの反応はどうですか?印象に残っているコメントなどがあれば教えてください。

「slido」はとにかく好評です。授業後の感想では、かなりの受講生から「双方向性を感じた」 「参加している実感があった」などの声が上がります。また、「一旦紙に書き出す」という作業についても、「頭が整理されて、よく考えるきっかけになった」といった意見が得られます。

—— なるほど!デジタルツールとアナログな書き出しを組み合わせることで、思考が深まるのですね。では、学生の成長や「学びが深まったな」と感じる場面はありますか?

課題などを通して、受講生のそれぞれが関心を持ったゴールについていろいろな考えをめぐらせていることが感じられるときでしょうか。また、他の先生の課題に対する回答を読んでも、視野が広がったり、深く考察したりする様子が感じられることもあります。

どのような授業にも活かせる「学びの姿勢」

—— 今後、この授業をどのように発展させていきたいと考えていますか?

現状では、幅広くいくつかのゴールについて専門家の講義を受ける構成で、意見交換の機会が若干少ないので、扱うゴールを絞り込んで、各自の考えを整理した上で受講生同士が意見交換して深めるような機会を増やせたら良いなと考えています。

—— なるほど。専門家の講義を受けるだけでなく、学生同士で話し合う時間をしっかり確保することで、より深い学びにつながりそうですね! では、先生が教養教育の授業を担当するうえで、大切にしていることはありますか?

他の科目も含めて授業で意識しているのは、学生たちが大学での授業などを離れてからも自律的に学ぶための能力や方法を見つけてもらうきっかけを提示できればと思っています。

—— 確かに、学ぶ姿勢を身につけることは、大学を出たあとも非常に大切になってきますよね。

そうなんです。自分自身で伝えられる知識や情報の量には限りがあるので、そういったものをただ与えることよりは、どうやって知識や情報を得て、どうやって自分で判断していくかという力を身につけてもらうことが大切かなと思います。

—— こうした考え方は、どのような授業にも応用できそうですし、学生にとっても大きな財産になるかと思います。今後の授業の展開も楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

杉森先生が作成した 「slido」の使い方を紹介する動画は以下の通りです。ぜひご覧ください。

杉森先生作成:slidoの紹介動画(2024年度・後学期『SDGs入門』第15回)