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教員クローズアップ:法を知り、社会を知る〜外国人との共生社会に向けて (I)

今回は、2023年10月に富山大学に着任された、法学の安藤由香里教授にお話を伺いました。エジプト留学での難民の方々とルームシェアや、スーダンでの選挙監視など、様々なご経験を持つ安藤先生の考える「法学の面白さ・大切さ」とは?(インタビュアー:高野美帆講師)

高野

着任されてしばらく経ちましたけれども、富山、また富山大学の印象はいかがですか。

安藤
立山連峰を見るとすごく癒されます。立山連峰を見ると 、今日も一生懸命頑張ろうって気になります。

高野

すでに富山人の心をお持ちですね。富山大学の学生はどうですか。

安藤
真面目な子が多いかなという印象です。授業もすごく真面目に聞いてくれます。

高野
以前、先生とお話しさせて頂いた時に、「富山はストラスブールに似ている」とおっしゃっていたのが印象的でした。

安藤
ストラスブールはドイツとの国境付近にあるフランスの町なんですけど、 富山に初めて来た時に、富山市ってストラスブールだなと思ったんですね。その理由はいくつかありますが、まず一つは、トラム、地鉄が、 町の中を走っているじゃないですか。あれがストラスブールそっくりなんですね。そしてストラスブールにも山があって、富山にも立山連峰があるじゃないですか。特に環水公園に行った時に、すごくヨーロッパ的だと思って。ヨーロッパ的な街作りをしているのじゃないかなと思ったんですね。ストラスブールってそんなに大きな町ではなくて、コンパクトシティみたいな感じなんですけど、おそらく富山市を作った方は、ストラスブールをイメージしてるのかなと(笑)。私、ストラスブールによく行ってたんですよ。専門が人権で、ヨーロッパ人権裁判所がストラスブールにあるので、 コロナの前は毎年夏はずっとストラスブールで過ごしていました。それぐらいストラスブール大好きで。そして富山に来てみたら富山の街がストラスブールにすごく似ていて嬉しかったです。

高野

嬉しいですね。これからは、富山は日本のストラスブールと名乗れますね(笑)。今、先生のご専門のお話も出ましたけれども、本大学ではどのような科目を教えていらっしゃいますか。

安藤
今、「日本国憲法」と「市民生活と法」、それから「国家と市民」を教えています。

高野

授業で心がけているのはどのようなことですか。

安藤

一方的に話すのではなく、できるだけ学生さんにも参加してもらうようにしています。

高野

大規模クラスだとそういった試みはすごく難しいと思いますが、どのように学生さんを促していますか。

安藤
よく使ってるのはmiroというオンラインホワイトボードで、そこに色々書き込んでもらっています。そのほかには、slidoのワードクラウドも使っています。色々意見を書いてもらって、たくさん同じ意見が集まると字が大きくなるようなものです。

高野

可視化されるんですね。

先生のご専門が国際人権法、難民法、入管法とのことですけれども、研究のきっかけについて教えて頂けますか。

安藤

大学を卒業して、エジプトのカイロに留学しました。その時に難民と一緒にルームシェアしたのがきっかけで、難民ってすごい人たちだなと思い、もっと知りたいなと思ったのがきっかけで、日本に帰ってきて、大学院で難民について学びました。私が最初に会った人たちは、何日もかけて、エチオピアやエリトリアからカイロまで歩いて逃げてきました。自分の国の保護を受けられずに生活をしていくというのは、すごく大変なんで 国連などが支援をしています。そういうようなことは、日本にいたときには全然知りませんでした。 それで、彼らのことをもっと知りたい、自分に何ができるんだろうと思ったのがきっかけで今に至ってます。

 

高野

どうしてエジプトに留学されたんですか。

安藤

アラビア語を学ぶためです。外務省職員が アラビア語留学する時って、シリアに行く方が多いんですね。なぜかって言うと、シリアはアラビア語が正則アラビア語に近いからです。その当時はシリアは安全だったので、アラビア語を学びにシリアに行くという選択肢もあったんですよ。東京外国語大学や大阪外国語大学のアラビア語学科の人達もシリアに留学する人が多かったですね。それ以外ではエジプトでした。エジプトはシリアよりも、もう少しオープンな感じの国で外国人が多いので、アラビア語を勉強するならシリアの方がいいけれども、環境を考えるとエジプトということもあって、私はエジプト政府の奨学金をもらえたので、それで行ったんです。

高野

私たちには全く考えたこともない世界のお話ですね!

安藤

最初は大阪外国語大学アラビア語学科の日本人と一緒に、まるまる家一軒を借りて住んでたんです。でも、日本人同士なので日本語ばっかり喋るじゃないですか。それで、これ良くないよねっと話し合い、私はエジプト人のお家にホームステイをして、一緒にいた子はエチオピア人とエリトリア人のところでルームシェアしたんです。 そしたら、その子が日本に帰らないといけなくなったので、私はその子が住んでいた、エチオピア人とエリトリア人とルームシェアをはじめたんですよ。自分のお部屋があって、リビングとか、キッチンとか、全部シェアという感じで、お金を払うと、そこの大家さんのエリトリア人が朝昼晩作ってくれると言うので、それで作ってもらっていたんですよ。

高野

大家さんがエリトリア人だったんですか?

安藤

そうそう、大家さんがエリトリア人で、当時二歳の女の子がいて、エチオピア人の女の子と 私、4人かな。結構いろいろな人が出たり入ったりしてたので、もう少し人数がいることが多かったですね。

高野

面白いですね。

安藤

面白かったですよ、色々と。初めて外国人と一緒にルームシェアしたので。いろんな文化の違いとかあるじゃないですか。エチオピアとエリトリアが紛争していて国同士は争っていても、彼女たちは別にそういう意識はないんですよ。国は争っているけれども、すごく仲良く、自分たちが難民っていうか、国を追われて紛争から逃げてきたっていう同じ状況だから、一緒に助け合いましょうね、みたいな感じで生活してたんですね。それが,私が難民研究を始めたきっかけです。彼女たちに会わなかったら、多分今の研究していないと思います。

高野

そうなんですね。アラビア語を学びたいと思ったきっかけは何だったんですか。

安藤

大学の時に言語を選ばないといけなかったんですよ。中国語が結構メジャーで、ハングル、タイ語、ベトナム語、ウルドゥー語、ヒンドゥー語、ペルシャ語、 それからアラビア語があったんですよ。その中で私はアラビア語を選んだんですけど、オフィシャルな理由は、一応国連の公用語だからです。国連の公用語で、日本人でアラビア語話す人はあんまりいないから、やっといたらいいかなと思って選んだんですね。でも本当の理由はピラミッドに上りたかったからなんです(笑)。それでアラビア語を勉強し始めたんですね、日本で。でも、ちゃんと勉強するには現地に行った方がいいかなと思って、大学卒業してから行きました。警備員さんに止められて、実際はピラミッドには上れなかったんですが(笑)。

高野

先生は大学の外国語を選ぶ時から、国連とか、そういうものを考えていたんですか。

安藤
そうですね、国連はちょっと憧れてたっていうか……そういったところで働きたいなっていうのは高校、中学ぐらいから思っていました。

高野

先生は色々なご研究をされていると思いますが、ご自身の研究の中で富山大学の学生さんに、特に知ってもらいたい 研究について教えていただけますか。

安藤
今、日本は少子高齢社会です。なので外国人との協力なしでは生きていけないんです。でも、あまり現実を知らない学生さんが多いです。「国家と市民」という授業では、まさに入管法という、 外国人が日本に来たり、日本人が外国に行くときの法律を扱っています。今まで入管法を知らなかったっていう学生さんがすごく多いですが、それ知らないと今後すごく困るよってことを知ってもらい、日本人は今後、外国人との共生なしではあり得ないという現実をちゃんと知ってもらいたい、 と思います。

高野
知らないだけで、もう起こっていることですよね。

安藤

そうですね。このまま行くと、若者が 高齢者をものすごく少ない人数で支えないといけないので、「そういう社会でもいいの?」って言うと、みんな嫌だって言います。

外国人が日本に来る時って、当然法律で守らないといけないこといっぱいあるじゃないですか。それが今、色々変わっています。去年も法律が変わったのですが、今年もまた変わり、国会で色々議論されていますが、そのことを知っている日本人は少ないので、学生さんにはもっと知ってほしいと思います。

高野

そんなに毎年変わっているんですか?

安藤

変わってますね。特に労働関係のこととか。富山もそうなんですけど、技能実習生とか、ものすごくベトナム人が多いんですね。かつては中国人が多かったのですが、今は圧倒的多数がベトナム人なんですよ。 普通に歩いてても結構ベトナム人はいますよね。おそらく彼らは技能実習生か特定技能か、そういう制度で入ってきている人なんですよ。でも、私たちは彼らのことをあんまり知らないじゃないですか。

高野

彼らのコミュニティーがあって生活しているのを見かけるくらいで、あんまり接点がないですよね。

安藤

そうなんですよね。だから、もうちょっと今の現実を知ってもらいたいので、その切り口として、入管法を授業で取り上げています。

高野

学生たちが思っているよりもずっと身近な話題ですよね。

◆安藤先生の研究のお話や、難民の方々との出会いのお話を伺って、法律や国際交流は、私たちが思っているよりももっと身近で、生活に密着しているものだとわかりました。インタビューの後半では、おすすめの海外旅行先や先生のガッツの原点、海外の美味しいもののお話などを伺います。(インタビューは、「法を知り、社会を知る〜外国人との共生社会に向けて」IIにつづく)